こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

GE

清家彰敏『顧客組織化のビジネスモデル―小規模事業集団の経営』―「『顧客を組織化する』とはこういうことではないか?」という4形態


顧客組織化のビジネスモデル―小規模事業集団の経営
顧客組織化のビジネスモデル―小規模事業集団の経営
清家 彰敏

中央経済社 2003-04

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 タイトルからして、バラバラの顧客を組織化して顧客同士の絆を強めるビジネスモデルのことであり、また、「小集団事業集団の経営」というサブタイトルから、中小企業中心、ないしは大企業が小規模のグループを多数作り、組織化された顧客との距離を縮め、顧客のロイヤリティを高めることによって持続的に収益を上げるビジネスモデルについての本かと思ったが、全く違った。

 まず、20世紀のモノ中心の市場経済では収穫逓減の法則が働くが、21世紀の知識中心の市場経済では収穫逓増の法則が成り立つと著者は説明する。その上で、「戦略的―戦術的」、「オープン―クローズ」という2軸を使ってマトリクスを作り、収穫逓増のモデルを「選別型(A型:戦術的&クローズ)」、「素材型(B型:戦略的&オープン)」、「組立型(C型:戦略的&クローズ)」、「誘発型(D型:戦術的&オープン)」という4つに分ける(モデルの名称と具体的なモデルの中身の説明が感覚的に一致しないのも、この本を解りにくくしている)。その上で、それぞれのモデルについて顧客組織化の方法が論じられるのかと思いきや、事例の解説に入ると、これとは別のマトリクスが登場する。

 新たに登場するマトリクスも1つならまだ我慢して理解しようとするのだが、事例紹介のたびに別のマトリクスが登場するから非常に解りにくい。「プロダクト―サービス」と「オープン―クローズ」という2軸によってマトリクスを作り、「サービス&オープン」型をWorld Wide型(脱日本型)として最も先進的なモデルとしているのに、別の箇所では「プロダクトがオープンかクローズか?」、「サービスがオープンかクローズか?」という2軸によるマトリクスで、「プロダクト=オープン、サービス=クローズ」というGEが先進事例として紹介されており、サービスをオープン化するのが先進的ではなかったのかと頭が混乱する。

 (※)GEは、製品レベルでは他社の製品も取り扱っており、そのために短期的には利益率が下がるが、保守・修理・メンテナンスなどの粗利が高いサービスをGEが一貫して行うことで、トータルでは高い収益率を実現している。

 著者は「オープン―クローズ」という切り口に強くこだわっているようだが、組織がクローズの場合とオープンの場合で、顧客の組織化の方法がどのように異なるのかについては論じられていない。やっと組織化された顧客のことが登場したかと思うと、それはNPO/NGOのことであった。しかも、企業に対して協力的な存在ではなく、企業に対して敵対的な存在として描かれている。例えば、自動車業界では渋滞や環境など社会的な問題がまだ山積している。これらの課題について、顧客はNPO/NGOという組織を通じて自動車メーカーに圧力をかけなければならないというわけだ。ここまでくると本当に訳が解らない。

顧客組織化の4類型

 私が考える「顧客組織化」はもっとシンプルである。「顧客との関係が強いか弱いか?」、「短期的なコスト減になるか、中長期的な収益増(短期的にはコスト増)となるか?」という2軸でマトリクスを作ってみた。

 左上の<象限①>では、企業がデータベースを用いて顧客のデータを組織化する。企業はあくまでもデータを通じて顧客とつながっているにすぎないため、顧客との関係は弱い。企業は顧客DBに蓄積された様々なデータを解析し、ある顧客と類似の属性を持つ顧客の購買行動に着目して、類似の顧客が購入した製品をその顧客にも提案する。Amazonのレコメンデーション機能が一番解りやすい。IoTにおいても、顧客がどのようなメーカーの製品を組み合わせて工場で使用しているかをモニタリングし、類似の製品構成からなる工場の修理・メンテナンスの実績データを活用して、顧客に対して最適なタイミングで保守や買い替えの提案を行う。システム投資が必要であるため、短期的にはコストがかかるが、中長期的に見ると顧客の囲い込みにつながり、収益増がもたらされる。

 左下の<象限②>は、顧客同士による問題解決である。企業は顧客同士が緩やかにつながるネットワークを形成する。顧客は何か困りごとがあると、ネットワークに対して質問を投げかける。それに対して、別の顧客が回答を寄せる。これはYahoo!知恵袋のようなものである。ITベンダーが導入しているユーザ会が解りやすい例だろう。本来、顧客が何か問題を抱えた場合には企業がそれを解決するはずである。ところが、企業に代わって別の顧客がその問題を解決してくれるので、企業にとっては短期的にコストダウンが達成できる。

 右上の<象限③>は、顧客をコミュニティ化することである。企業と顧客は強い関係で結ばれている。また、顧客同士も強い絆で結ばれている。旧ブログの「ビジネスモデル変革のパターン」シリーズの「【第2回】高級志向の顧客を狙う」」で紹介したハーレー・ダビッドソンが好例である。バイクのユーザは元々コミュニティ志向が強く、同社は顧客のコミュニティ化を支援している。会員制クラブのイベントは臨時社員ではなく正社員が運営しており、同社が顧客とのつながりを重視していることが解る。また、経営陣も頻繁にコミュニティに顔を出し、真の顧客志向を体現している。こうした活動はすぐには売上増につながらないが、長く続けることで顧客のロイヤリティが高まり、中長期的には収益増が実現される。

 右下の<象限④>は、顧客参加型の製品・サービス開発である。企業に対して強い愛着を持っているコアユーザを新製品・サービスの開発の段階から巻き込む。コアユーザに対して、紋切り型のヒアリングをして情報を収集するだけでなく、本当の意味で彼らを製品・サービス開発に参画させる。具体的には、新製品・サービスのコンセプト構想会議に出席し議論に入ってもらう、プロトタイプを一緒に作成してもらう、テストマーケティングにおいて単に新製品・サービスを使ってもらうだけでなく、潜在顧客にそれを勧めてもらう、などといった具合である。企業としては、新製品・サービスの開発コストを削減する効果が期待できる。

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―キャリア自律を引き出したければ企業はより強力に戦略を示さなければならない


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 2016年4月1日に「改正職業能力開発促進法」が施行された。同法は、労働者が職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めることを基本理念としている。事業者は、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。ここで言う「キャリアコンサルティング」とは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 経済が右肩上がりで成長していた時代には、企業が社員に対して明確なキャリアパスを示し、社員はそれに従ってキャリアを歩んでいればよかった。ところが、経済が成熟化し、先行きが不透明になると、企業が社員に対してキャリアパスを示すことが困難になり、代わりに社員が自ら自分のキャリアを開発することが求められるようになった。これをキャリア自律と言う。GEは、有名な「セッションC」や「9ブロック」に代表される従来の人事制度を抜本的に改め、上司と部下が日常業務の中で頻繁にコミュニケーションを図ることで部下の能力やコンピテンシーを伸ばし、部下のキャリア自律を支援するようになっている。

 日本企業にもこの流れが及んで、職業能力開発法が改正されたわけだが、キャリアコンサルティングに取り組んでいる企業の社員からは、「突然、自分のキャリアを自分でデザインせよと言われてもどうしてよいか解らない」、「企業がもっと方向性を明確に打ち出してくれないとキャリアデザインができない」といった困惑の声が聞かれる。企業が明確な方向性を示せないので、社員に方向性を打ち出させようとしているのに、実際には社員は企業に対して、以前にも増してはっきりとした方向性(戦略と言ってもよい)を示すことを要求している。

 私は、社員側の言い分にも十分な理由があると思う。おそらく、こういうことを言う社員がいる企業では、経営陣や人事部が「社員がやりたいことを自由に考えてよい」というメッセージを発しておきながら、いざ社員が自分のキャリアをデザインすると、「その仕事は我が社ではできない、やる機会・環境がない」などと言って突き返すだろうと社員が恐れているのである。社員にとってこれほど迷惑な話はない。顧客が商談の初期の段階で「御社の提案に従います」と言っておきながら、いざ仕様を細かく詰めていくと、「私(我が社)がほしいのはこんな製品・サービスではない」などと言い出す顧客とはつき合いたくないのと同じである。

 だから、逆説的であるが、社員がキャリア自律を実現するには、企業は(キャリアパスは無理でも、)少なくとも戦略は明確に打ち出す必要がある。経営陣は社員に対し、「我が社はこういう方向に進もうと考えている」と主張する。一方の社員は、「いや、私はこういう方向に進みたいと考えている」と言い返す(山本七平の言葉を借りれば「下剋上」である)。この「強烈なトップダウン」と「強烈なボトムアップ」が衝突するところに創発的な学習が生まれ、その結果として企業はより洗練された戦略を、社員はより高度なキャリア意識を手に入れることができる。

 企業は改正職業能力開発促進法によって、キャリアコンサルティングさえ実施していれば、方向性を考えるのは社員に任せればよいことになった、というわけでは決してない。むしろ、経営陣が戦略を入念に構想する責任は、以前よりも大きくなったと考えるべきである。この点を誤解してはならないと思う。

『人事部の掟/みずほ 万年3位脱出ミッション/旭化成 3代30年続いた“院政経営”からの卒業 その知られざる全貌(『週刊ダイヤモンド』2015年5月2・9日号)』


週刊ダイヤモンド 5/2・9合併号 [雑誌]週刊ダイヤモンド 5/2・9合併号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-04-27

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 本号の特集は「人事部」。人事部は企業の暗部と言われているが、本号では様々な企業の制度が紹介されていて興味深かった。サイバーエージェントには「ミスマッチ制度」というものがある。半年に一度の査定時に、「成果」と「価値観」という2つの尺度で全社員を360度評価し、役員会で2度続けてミスマッチ認定を受けた人は異動を受け入れてもらうか、退職を選んでもらうという制度である。

 これまでに70人がミスマッチ認定を受けており、そのうち30人が退職し、30人が面談などによってスコアが改善し、残り10人は進行中のプロセスにあるという。サイバーエージェントの連結従業員数は3,168人(2015年5月1日時点)であるから、全体の約2%がミスマッチと判定されたことになる。

 サイバーエージェントのこの制度は、GEの「9Blocks」という制度を参考にしていると思われる(旧ブログの記事「GEの「9Blocks」というユニークな人事制度」、「「できるヤツでも組織の価値観に合わなければクビ」のGE流」を参照)。9Blocksでは、「業績」と「バリュー」という2軸をそれぞれ3段階に分けて3×3のマトリクスを作り、全社員をそれぞれの象限にプロットしていく。

 業績=上位&バリュー=上位が最も優秀な人材ということになるが、その割合は全体の5%程度らしい。逆に、業績=下位&バリュー=下位は、ミスマッチ人材と見なされて解雇の対象となる。その割合について本号では言及がなかったものの、最も優秀な人材が5%程度であることからして、その対極にあるミスマッチ人材も5%程度と推測される。サイバーエージェントでミスマッチと判定された社員の割合が2%程度であるから、GEの制度がいかに厳しいものであるかが解る。

 ただ、本号での一番の収穫は、GEがこの9Blocksを2016年末までに廃止する予定であるということだ。既に、本社のあるアメリカ、買収案件のあるイタリアとブラジルの3か所で先行して新しい人事制度への切り替えを進めている。従来通り成果主義の旗を降ろすことはないが、9ブロックのどのボックスに入るかどうかの話し合いは止めて、日常業務の中で上司と部下が対話することで一定の評価を定めていく方針らしい。GEが新たにどんな人事制度を構築するのか、要注目だ。
お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
最新記事
人気ブログランキング
にほんブログ村 本ブログ
FC2ブログランキング
ブログ王ランキング
BlogPeople
ブログのまど
被リンク無料
  • ライブドアブログ