ドキュメント トヨタの製品開発: トヨタ主査制度の戦略,開発,制覇の記録ドキュメント トヨタの製品開発: トヨタ主査制度の戦略,開発,制覇の記録
安達 瑛二

白桃書房 2014-09-06

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 トヨタには「主査制度」というものがある。これは1人の製品企画室主査に、担当者種に関する企画(商品計画、製品企画、販売企画、利益計画など)、開発(工業意匠、設計、試作、評価など)、生産・販売(設備投資、生産管理、販売促進など)の全てを委ね、全決定権と全責任の所在とを一元化する、という独自の製品開発体制である。簡単に言えば、主査は担当者種について、マーケティングから生産、販売までの全プロセスに責任を負う。

 当然のことながら、社内のあらゆる部門との協力が欠かせない。ところが、面白いことに、主査には他部門に対する指揮命令権はない。あくまでも説得と助言しかできないことになっている。それでも、担当者種の全責任は主査にあるわけだから、何としてでも関係部署を突き動かす必要がある。まるでオーケストラの指揮者のように、各部署を1つにまとめ上げなければならない。主査に求められるのは、一言で言えば深い人間力である。

 著者の安達瑛二氏は1960年から84年までトヨタ自動車に勤務し、主査の部下である主担当員として、次世代マークⅡ、その双子車であるチェイサー、さらなるシェア拡大を狙ったクレスタに携わった。3車種の相次ぐ成功によって、トヨタは日産とのシェアを逆転させ、シェア50%を獲得するまでに至った。本書は、著者が当時の記憶をたどりながら、主査制度を中心としてトヨタでどのように製品開発が行われているのかをまとめたドキュメンタリーである。

 ただ、これは私の歪んだ見方かもしれないが、これだけ多くの部署が関与すれば、激しい対立は日常茶飯事であったと推測される。しかし、本書では主査と他部署との間で対立が生じても、「まぁ、一つやってみようや」という感じですんなり話が進んでしまう。それがトヨタのよさであり強みなのかもしれないが、対立に関する細かい記憶がそぎ落とされている可能性も否定できない。この点は、著者が30年以上前の記憶をたどりながら書いていることに起因する限界であろう。

 また、個人的には、本書にはもっと別の内容を期待していた。それは、トヨタがどのように市場調査を行って潜在ニーズを抽出しているのか?それをどうやってQFD(品質機能展開)しているのか?機能と部品はどう紐づけられるのか?原価目標、重量目標、リードタイム目標などはいかなる根拠をもって導かれるのか?それらの目標を受けて、調達の体制をどうやって整備しているのか?製造プロセス設計や設備設計はどのようにして行われているのか?などといった、製品開発における王道的な内容である。本書はこの辺りがやや弱い印象を受けた。